第68回江戸川乱歩賞を受賞されたこの作品は、タイトルと装丁からかなり惹かれるものがありました。
作家の荒木あかねさんは23歳という若さで本賞を獲得されています。
小惑星衝突による地球滅亡が2ヵ月後に迫った世界で、主人公である小春(ハル)と自動車教習所教官のイサガワ先生が連続殺人の謎を追うという他にはあまり見ないようなシチュエーションとなっています。
荒木さんはインタビューでも「自分のこの作品が大好きです」とおっしゃっています。
お若いのに、しっかりとした自分思想が含まれているこの作品は、年配者の私にとっては少し困惑するワールドだったかもしれませんが、良い意味で脳みそを刺激してくれた衝撃の作品でした!
【スポンサーリンク】
■あらすじ
小惑星「テロス」が2ヶ月後に熊本県阿蘇郡に衝突することが発表され、世界は大混乱に陥りました。
そんな中で福岡県に住む小春(ハル)は、ひとり淡々と自動車の教習を受け続けるのです。
年末、利用していた教習車のトランクを開けると、滅多刺しにされた女性の死体を発見します。
2ヵ月後には地球は滅んで全員死んでしまう・・・それなのに、なぜ殺人などがおこるのだろうか?
小春は、教習所の教官イサガワ先生とともに殺人事件の謎解きを始めるのです。
こんな世の中になってしまったことから、生きる希望を亡くして自ら命を絶った人々の死体がそこら中に散乱している背景の中、2人はこの事件の解決にこだわります。
そして出会っていく人々とのやりとり、最後は衝撃の事実と壮絶な戦いが・・・
■なんとも言えない異世界感
私にとっては初め困惑していた迫りくる小惑星の衝突という背景。
でもこの小説の出発点は小惑星じゃなくて、実は自動車教習所なんです。と作家の荒木さんは言っています。
(インタビューからの抜粋)
大学卒業間際から自動車の免許を取りに行ったんですが、わたしは運動神経が鈍いので、教習所に通うのがとても辛かったんですね。
他の人は坂道発進や車庫入れをすいすいこなしているのに、わたしだけが落ちこぼれで(笑)
あまりに辛いので、「これは小説の取材だ」と考えるようにしたんです。
教官との会話も苦手だったんですが、小説のネタ探しと思ってがんばろうと
読み始めの時には車の教習を受けている普通の場面かと思いきや、突然首吊り死体に激突するという通常ではありえない光景にぶち当たります。
初めはなんだ?この異様な世界観は・・・・ と気持ちがもやもやとしていたのですが、あと2ヶ月で地球に小惑星が衝突するという事実が背景にあることがわかり、なるほど・・ではなく、う~んそうかぁ~ というちょっと戸惑いの感情が生じたのです。
私が今までに読んだミステリー小説の中でも群を抜いて想像もできない世界観だったので、慣れるまでには少し時間がかかりました(笑)
【スポンサーリンク】
■感想
荒木さんのインタビューで印象に残った以下の言葉がありました。
(インタビューからの抜粋)
滅亡に向かう世界の中で、ハルの正義感や道徳観が何度も揺らぎます。
どうせみんな死ぬんだから、何が起こってもいいじゃないかと。
でもどんな状況であっても、大切にしなければいけないものがあるとわたしは思います。
ハルたちの選択が少しでも、読んだ方の心を動かすことができたらいいなと願っています。
普段では想像もできない世界をしっかりと自分の中にセットして、そこでもしこんなことが起こったらという考えのもと、ご自身の正義感もきちんと表現しているのではないでしょうか。
ハルとイサガワ先生の2人の動きがまさにご本人の正義感を示しているのだと感じました。
そして、この方はとても冷静に世の中を見ているのかなと感じさせられました。
今後の荒木さんのご活躍も楽しみですね!
【スポンサーリンク】
|