読書-Harinezumiの生活

読書好きな自分(読書垢)が読んで本で伝えたいことなどを書いていきたいと思います!

信頼、裏切り、後悔、敬愛、憎悪、憧れ、友情、希望が詰まった作品

残像

伊岡瞬先生の作品はいくつも読ませていただいています。

今回も書店で見た装丁帯のメッセージにひかれてしまいました。

「誰だ!かつて俺が痛めつけた少年の写真を送り付けてくる奴は」

この明らかに加害者(このお話ではある大物政治家の息子である吉井恭一)側の目線で言い放たれたセリフ・・・

そして過去に事情を持っているバラバラな年代の3人の女性とひとりの小学生が共同生活をしている中に偶然飛び込む浪人生の堀部一平・・・

これらの登場人物でどんな物語が展開されるのか?そして「残像」というタイトルの意味は?

全く想像もつきませんでしたが、それだけにこの物語を知りたい!という衝動にかられることになりました。

この小説は、登場人物たちの孤独や絶望、そして希望の葛藤を描きながら、読者を彼らの内面の深部に導いていく不思議な力があります。

 

■あらすじ

ボロアパート


浪人生生活を送る堀部一平は、60代後半のバイト仲間である葛城を介抱するためにアパートを訪れると、晴子、夏樹、多恵という年代もばらばらな女性3人と男子小学生の冬馬が同居生活を行っているところに出くわします。

関わりを持たないようにしようと思う堀部だったが、なんだかんだと彼女たちと出くわすうちに何度もアパートを訪れるようになります。

不思議な交流が続くなか、ある日葛城のノートを覗き見た堀部は晴子、夏樹、多恵の3人が全員前科を持っていることを知ります。

一方で、ある大物政治家の息子である吉井恭一は、何度も送られてくる、過去を断罪する写真に苦悩していたのです。

身を寄せ合う晴子たちの目的、そして水面下でうごめく企ての行方・・・

それは暗い過去への復讐だったのです・・・

伊岡先生は「信頼、裏切り、後悔、敬愛、憎悪、憧れ、友情、希望。そんなあれこれをぎっしり詰め込みました」とおっしゃっています!

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■「残像」を読んで気づかされたこと

幼少期のトラウマ


私自身がこのお話を読んで強く感じたことは、人が幼少期に受けた心身の傷は、その人の成長過程の人格形成に大きな影響を及ぼしてしまうということ・・・

そしてこの影響が自分自身を犯罪者側に導いてしまうことも起こりうるということ。

あるサイトで「子ども時代に生じるトラウマの特徴」について読みました

・言語の形成過程にあるから、イメージが詳細に残りやすい
・トラウマ的な状況は、細部まで脳に刻み込まれやすい
・自己と世界を関係づける過程にあるから、自責感を持ちやすい
・問題が生じた際に、自らに原因があると思い込みやすい
・世界観の形成過程にあるから、特有の認知が形成されやすい

子どもにとって家庭内が唯一の世界。

家庭内で起こったことが、その子にとっての世界であるため、世界全体を恐ろしいものとして認識してしまうのです。

これを見ただけでもかなり繊細な感情が渦巻いているというのに、このお話では家庭外で受けたそれぞれの衝撃的な事象によって、その後の人生を狂わされる登場人物たちがいるのです。

日常の我々の大人たちがふるまう行為そのものが、子供たちに与える影響は相当に大きいものだと思うと、本当に気を付けて生活をしなければいけないという戒めも感じることができました。

 

■「残像」の特徴

つながり


伊岡先生の作品ではよく見られる?特徴かもしれませんが、シチュエーションが異なるお話が平行して流れていき、それが徐々に終盤に向かってつながっていくという流れです。

読者側の自分にとっても、いつかどこかでつながりを見せるだろうと想像して読み進めるのですが、このお話では私にとって意外なつながり方をしてくれましたね。

そのつながりを知った瞬間に、今まで読み進めてきた中で自分自身が抱いていた登場人物に対しての思いが、微妙に変化していくのが分かるのです。

これは伊岡ワールドの特徴だと私自身が思っています。

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■残像というタイトルの意味と2文字タイトルの秘密

幼少期の体験が影響を及ぼすお話という意味では「残像」というタイトルにしっくりきました。

それとは別に伊岡先生の作品には意外と2文字の熟語がつかわれることが多いのですが、インタビューでは以下のようにお答えされていますね。

「僕の作品タイトルに漢字2字が多いのはディック・フランシスの影響です。おススメは『大穴』とその続編の『利腕』。素晴らしいです」

そんな小ネタも知ることができました。

カドブンさんが伊岡先生の特設サイトを開いてくれていますね!ファンにとっては嬉しい情報が満載です。

kadobun.jp

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