伊岡瞬の独特な世界観が広がるヒューマンドラマ
■あらすじ
物語は1968年、「千里見の七夕崩れ」とよばれる大型台風による壮絶な被害場面からはじまります。
その台風の影響で土砂崩れがおこり、町は多数の死者・行方不明者を出したのです。
それから20年後、千里見町で『清風館』という旅館を営む清田母娘の前に、坂井裕二と名乗る大学生が現れます。
娘の千遥は母と二人暮らしをしていましたが、それは千遥の父が急死したためだったのです。
この土地の地質を調べると言いながら、裕二はなぜか夜ごと町を徘徊します。
そして天体観察ということをきっかけに千遥はだんだんと裕二のことが気になり始めるのです。
実は、裕二は子供の頃からある事情を持つ人生を送ってきていました。
そしてその経過をたどると千里見町の被害に密接な関りがあることがわかります。
そしてそこには千遥の父親の存在も・・・
千里見町の20年前の豪雨がもたらしたおどろくべき悲劇とは一体何だったのでしょうか?
そして激流に飲まれた人間の運命がやがて大きな感動へとたどり着くのです。
■奔流の海はこんな人におすすめ
青春ミステリーと表現されるのが適切かもしれません。
どっぷりとヒューマンドラマに浸りたい人にはとてもお勧めと言えますね。
主人公である坂井裕二の数奇な人生が描かれており、読みながら時には胸が痛くなるような場面にも遭遇することになります。
そしてそれを支えるかのように伏線的な千遥とのやり取りには温かさも感じられます。
決して平凡な状況ではありませんが、実際に無いとも言えない人間のたどる人生の壮絶さを感じることができるのです。
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■物語の進み方の特徴
このストーリーの展開は読み手をとてもひきつける要素を持っています。
裕二のたどる人生の経過が語られる場面の間に現在の千遥の状況が挟まれるように交互にストーリーが展開されていきます。
そしてその二つの線がだんだんと終盤に向かって一つの点につながる構成になっているのです。
このストーリー構成こそが読者をとてもひきつける要素になっており、最終的に点で結ばれる結末に大きな感動を持たせてくれるのです。
目が離せない! 一気読みしてしまう! という力を持った内容だと感じましたね。
■伊岡先生のこぼればなし
このお話を書くきっかけを知ることができました。
それは伊岡先生が旅先で見たひとつの貼り紙だったそうです。
(伊岡先生のことばから抜粋)ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「10数年前、取材旅行先の街を歩いていると、ふと公民館の掲示板に、男の子の写真が入ったビラを見つけたんです。それは行方不明者を探す貼り紙で、中学3年の男子が制服姿のままいなくなったことが記されていました。
変色し、端がめくれた古い貼り紙で、日付を見ると3年くらい前。だけど掲示板に貼ってある以上は、まだ見つかってないんでしょう。この子はどんな少年だったのだろう、いまどこにいるんだろうと、気になったんですね。
その時訪れていたのが“東海道の難所”と呼ばれる海辺の街。
数10年前に土砂崩れが起きて道路が寸断されたことのある土地でしたから、それなら豪雨災害を背景に物語が書けないかとイメージが膨(ふく)らんでいきました・・・」
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実際に訪れた土地のふとした状況からこのような感動的なお話を生み出してしまうのですね・・
伊岡先生の作品は他にもたくさん読ませていただいていますが、今回のような感動を覚えた作品は自分にとっては初めてでした。
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