『黒猫館の殺人』は綾辻行人の館シリーズとしては第6作目となります
(十角館→水車館→迷路館→人形館→時計館)※現在は その先に暗黒館の殺人、びっくり館の殺人、奇面館の殺人と続いています
「黒猫」というキーワードから連想できることとして、有名なエドガー・アラン・ポーの「黒猫」というお話があります。
ミステリーファンであれば自然とそのお話を意識してしまうのですが、この黒猫館の殺人は一体どんな内容なのか?タイトルから気になる作品でした。
シリーズの館の建築をすべて手掛けてきているのは中村青司(なかむらせいじ)という不思議な人物。
いずれもなんらかの仕掛けが施されていることは間違いありません。
いわくつきの老人、鮎田冬馬(あゆたとうま)の依頼からある手記をたどって謎を解くのはおなじみ鹿谷門美(ししやかどみ)=島田潔と江南孝明(かわみなみたかあき)のコンビです。
さてどんな展開になるのでしょうか・・・
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■簡単なあらすじ
1990年6月、稀譚社の編集者である江南孝明のもとに一通の郵便物が届きます。
差出人は鮎田冬馬という老人。
内容は「鹿谷先生とお会いし、お話をお聞きしたい」というものでした。
鮎田から電話があり、話を聞くと2月に滞在していたホテルが大火災に会い、その影響で記憶喪失になっているとのこと・・・
現在は自身が書いたと思われる手記に書かれた名前しかわからない状態でした。
鮎田は去年の9月まで「黒猫館」という家の管理人をしていたらしく、そしてその黒猫館を設計したのがあの中村青司だと聞き、江南の気持ちはざわつきます。
それは中村青司が設計した建物は今までも数々の悲惨な事件が起こり、自分自身も数多くの友人を失ったり、事件に巻き込まれたりしたからなのです。
江南は友人で推理作家の鹿谷門実(島田潔)に連絡を取り、手掛かりとなる手記を読むことになりました。
そこには「黒猫館」で彼が遭遇した殺人事件が綴られていたのです。
その手記に隠された謎を追求し、ふたりは札幌、阿寒へ向かうことになります。
そして壮大なる事実を解明することになるのです・・・
■この物語の特徴
『黒猫館の殺人』の最大の特徴は、残された手記がもとになっているということです。
リアルタイムで事件が進むのではなく、あくまでも鮎田氏が残したという手記の内容を注意深く紐解くことで真実にたどり着くというものです。
お話の進行は、その手記の内容と鹿谷&江南の考察が交互に繰り返す形式となっており、徐々に事実に近づいてゆく流れになっています。
綾辻行人先生の作品らしく、論理的かつ綿密に構築されたトリックと伏線が秀逸です。
もちろん読者は探偵役のふたりと共に謎を解き明かす過程を楽しむことができますが、その過程で示唆される手がかりや証拠は巧妙に手記に隠されています。
全ての要素が最終的に一つの答えに収束することは、読者に大きな満足を感じさせます。でも到底気が付けないほどの壮大な事実が読者を襲うことになります!
まさに綾辻ワールド炸裂といった感じですね!
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■お勧めポイント
館シリーズはもちろんどの作品も楽しいのですが、お勧めしたいのは作品の発表順に読むことです。
『黒猫館の殺人』の中にも今までの館シリーズを振り返るシーンが時々出てくるのですが、その背景や経過を知っているほうが読者としてはより楽しめる要素の一つとなっているからです。
そしてこの『黒猫館の殺人』も内容的に非常に緻密であり、読者を驚かせるトリックが随所に仕込まれています。
あとから分かる手記に書かれていた真実は、あらためて返り読みして楽しむことができるというミステリーファンの私にとっては、「それは気づけなかったよ!」と思わず声をあげてしまうほどでした。
鹿谷門美=島田潔の魅力的なキャラクターもまたこの作品の大きな魅力の一つです。
冷静でありながらも人間味溢れる様は読者にとって非常に魅力的な人物です。江南とのコンビもホームズとワトソン並みに定着しましたね。
■全体の感想
『黒猫館の殺人』は、綾辻行人の「館シリーズ」の中でも特に異彩を放つ(壮大なトリック)一作と言えると思います。
その魅力は、なんといってもその舞台設定と緻密なトリックにあります。
全ての出来事が徐々に真実に繋がっているのは、読者に大きな満足感と驚きを与えてくれます。
真実がどんどん分かり始めたとたんにページをめくる手がきっと止まらなくなることでしょう!
『黒猫館の殺人』は、ミステリーファンの中でも特に事実を客観的に分析できるいわゆる「安楽椅子探偵」が好きな方にも強くお勧めできる作品です。
緻密なトリック、魅力的なキャラクター、不思議な舞台設定が見事に融合したこの作品を、是非楽しんでほしいですね。
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