読書はりねずみの生活

読書好きな自分(読書垢)が読んで本で伝えたいことなどを書いていきたいと思います!

漫画で読む名作文学の深淵――夏目漱石『こころ』を今こそ読む理由

■はじめに|“難しそう”を越えていく第一歩としての「まんが版文学」

夏目漱石


「夏目漱石」と聞いたとき、皆さんはどんな印象を持ちますか?

おそらく多くの人にとっては、教科書に載っていた『坊っちゃん』や『吾輩は猫である』といった作品を思い浮かべるのではないでしょうか。

少しユーモアがあり、でもちょっと堅苦しい。

あるいは「昔の文章は読みにくそう」と、手に取る前から距離を感じてしまっている方も多いはずです。

実際、私自身もそうでした。

古書店で漱石の作品集を見つけたときには、「いつかは読まなきゃな」と思いつつ、本棚の中で何年も眠らせてしまっていたほどです。

読みたい気持ちはある。

でも、いざ開こうとすると、文章の硬さや文体のクセに気後れしてしまう。

そんなとき出会ったのが、この『漫画で読破シリーズ』の夏目漱石『こころ』でした。

「漫画で読むなんて邪道じゃないか?」

一瞬、そんな葛藤が胸をよぎったのも事実です。

しかし、読み終えた今ははっきりと言えます。

漫画だからこそ、感じ取れたことがあった。

これは単なる“ダイジェスト”ではありません。

むしろ、言葉では伝えきれない人物の感情や空気感を、絵という表現によって深く心に刻み込んでくれる。

そして何より、「あの難しそうな作品を読めた」という達成感すら与えてくれる。

それが、まんが版『こころ』でした。

本を読むことから少し遠ざかってしまった方、夏目漱石に苦手意識がある方、そして名作に触れてみたいけれど“どこから入ればいいのかわからない”と感じているすべての人に、まずはこの漫画版をおすすめしたいです。

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■あらすじ|“人間のこころ”に向き合う物語

物語は「私」という語り手が、東京で出会った一人の男性──“先生”と呼ばれる人物に強く惹かれるところから始まります。

先生は知識人でありながら職に就かず、静かな生活を送っていました。

どこか影をまとったようなその雰囲気に、語り手は自然と引き寄せられていきます。

やがて、先生の奥底にある苦しみに触れるようになった「私」。

そして、ある日突然送られてきた一通の遺書──それが、先生の数奇な過去、深い悔恨、そして“自死”へと至る背景を語り始めます。

遺書の内容は、先生が青春時代をともに過ごした親友「K」との記憶。

そして、二人が同じ女性「静」に想いを寄せたことで起きた、決定的な悲劇。

この三角関係のもつれが、やがてKの命を奪い、先生の“生きる理由”をも奪っていくことになります。

「恋は罪悪ですよ?」

この台詞に込められた意味が、物語を読み進めるにつれて重くのしかかってくる。

それは決して一方的な道徳ではなく、人間のエゴと弱さ、そして愛と孤独が複雑に絡み合った、普遍的なテーマの一つとして心に響いてくるのです。

■なぜ“まんが版”がここまで刺さったのか

小説としての『こころ』は、名作であるがゆえに、ある種の“覚悟”をもって読まなければならないような気がしていました。

けれど、まんが版はその壁をスッと取り除いてくれました。

何より驚いたのは、人物の表情や空気感が、言葉以上に心を動かすということです。

Kが静に視線を向けるさりげない一コマや、先生の沈黙の背後にある重たい後悔――。

それらがイラストで描かれていることで、「ああ、彼はこんなふうに感じていたんだ」と、より強く“伝わってくる”のです。

さらに、時間軸の操作や回想の入り方も非常に自然で、原作の構造を損なうことなく物語に没入できました。

本来であれば読み飛ばしてしまいそうな難解な語りも、漫画の力によって補完され、むしろより深く理解できた感覚があります。

■「先生」と「K」――理想と現実の間でもがく二人

先生

この作品がこれほどまでに人の心を捉える理由のひとつに、先生とKというキャラクターの対比があります。

Kは理想に生きる青年。

感情よりも信念を重視し、恋愛感情を抑え込もうとする姿が印象的です。

一方で先生は、世の中に幻滅しながらも、自分の感情には素直で、しかしその結果として他人を裏切る選択をしてしまう。

まったく異なる道を歩みながらも、どちらも不器用で、人間らしい。

そして、その不器用さが生み出す悲劇が、ただの“文学的事件”としてではなく、リアルな感情の揺れとして読者に突き刺さってきます。

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■現代に生きる私たちにとっての『こころ』

正直に言えば、「恋は罪悪ですか?」という言葉に、最初は違和感を覚えました。

でも、読み終えたときには、この問いがとても現代的に思えたのです。

SNSが普及し、人との距離が近くなった今こそ、「自分の感情をどう表現するか」「他人をどう信じるか」という問題は、より複雑になっています。

だからこそ、『こころ』が描く“人間の内面”の苦悩は、100年以上経った今でも色褪せないのだと感じました。

■夏目漱石という作家を“再発見”する

こころイメージ

このまんが版をきっかけに、私の中で夏目漱石の印象が大きく変わりました。

「堅苦しい」「古い」という先入観が、まったくの誤解だったと気づかされたのです。

私の好きなシリーズ『ビブリア古書堂の事件手帖』でも、漱石の『それから』がモチーフに使われていました。

そのときは「へえ、漱石の作品って恋愛要素もあるんだな」くらいにしか思っていなかったのですが、『こころ』を読んだ今、その奥深さにようやく触れることができた気がします。

これからは少しずつ、原作にも挑戦してみよう。

そんな気持ちにさせてくれる一冊でした。

■まとめ|“こころ”の奥底に触れたいすべての人へ

もしあなたが、「夏目漱石=教科書の中の作家」という印象を持っているなら、ぜひこの漫画版『こころ』を読んでみてください。

たしかに、原作は100年以上前に書かれた古典文学です。

しかし、そこに描かれている人間関係の葛藤や感情のぶつかり合いは、現代を生きる私たちにも痛いほどよくわかるものばかりです。

恋に揺れ、友情に悩み、他人を裏切ってしまうことに対する罪悪感。

それは決して“昔の人”だけが感じていたものではなく、誰もが抱える「こころのひだ」に通じています。

そして何より、この作品が漫画というかたちで描かれることで、そうした繊細な感情がよりクリアに、よりリアルに伝わってきました。

文章だけでは読み取りきれない登場人物の表情や、沈黙に込められた思い──それらを絵が補い、読者の心にじんわりと浸透していくのです。

「難しそう」「古くさい」「堅苦しい」
そんなイメージを抱えている人こそ、このまんが版『こころ』を手に取ってみてほしいと思います。

漫画版はただの“要約”ではありません。

原作のエッセンスを大切にしながらも、今の私たちの感性で受け止められるように丁寧に再構築された、もう一つの『こころ』です。

そして読後にはきっと、あなた自身の心の中に、いくつかの“問い”が残るはずです。

「人を信じるとはどういうことか?」
「本当の愛とは?」
「罪悪感とどう向き合えばいいのか?」

その問いに、明確な答えはありません。

けれど、それを考えるきっかけこそが、名作文学に触れる最大の価値ではないでしょうか。

この一冊が、文学の世界への扉となり、そしてあなた自身の“こころ”と対話するきっかけとなることを、心から願っています。

読むタイミングはいつだって遅くありません。

名作は、いつでも私たちの身近な存在なのです。

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