読書はりねずみの生活

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『犯人に告ぐ』雫井脩介|一気読み必至の警察小説!ドラマとの違いも解説


『犯人に告ぐ』を手に取ったきっかけ──シリーズ最新刊との出会いから始まった

 書店をぶらりと歩いていたある日、平積みされた文庫本の中に目を引くタイトルがありました。

『犯人に告ぐ3』──雫井脩介の人気警察小説シリーズの最新刊です。

「えっ、もう3巻まで出ていたの?」「タイトルからして面白そう…」そんな直感に背中を押され、思わず手に取ってしまいました。

ただ、シリーズ3作目からいきなり読むのももったいない気がして、まずは原点である『犯人に告ぐ』の初刊からじっくり読んでみようと決意。

古い作品ではありますが、Amazonやブックオフなどでも入手できるのがありがたいですね。

こうして手元に届いた上下巻を開いた瞬間から、まさに「これは当たりだ」と思いました。

正直、上下巻を一気に読み切るほど夢中になってしまいました。

タイトルに惹かれて読んでみたとはいえ、ここまで没頭できるとは思っていなかったのが本音です。

物語は一人の刑事を中心に展開し、事件解決に向けて警察、マスコミ、被害者家族、そして世間の反応が交錯していく…その描写の緻密さと人間ドラマの奥深さに、ぐいぐいと引き込まれていきました。

書店での偶然の出会いが、新たなシリーズ読破への扉を開いてくれたように思います。

今ではすっかり『犯人に告ぐ』シリーズの虜になっており、2巻・3巻と続けて読むつもりです。

本記事では、そんな『犯人に告ぐ』のネタバレなしのあらすじ紹介と感想、ドラマ版との違い、シリーズとしての魅力をじっくりお伝えしていきます。

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■『犯人に告ぐ』あらすじ紹介(ネタバレなし):劇場型犯罪に挑む“異端の刑事”

物語の舞台は、かつて未解決に終わった連続児童殺害事件「青少年連続殺人事件」から数年後の横浜。

平穏を取り戻したかに見えた街に、再び類似の凶悪事件が発生し、街は不穏な空気に包まれます。

主人公は、神奈川県警に勤務する巻島史彦(まきしま・ふみひこ)警視。

かつてマスコミ対応のミスで警察の第一線から外され、しばらくくすぶっていた彼が、今回の事件の指揮を任されるところから、物語は動き始めます。

しかし、巻島が選んだ捜査方法は、これまでの常識を覆すような「異端の手法」でした。

それは――テレビを通じて犯人に直接メッセージを送る「劇場型捜査」。

まるで犯人との心理戦を公開討論のように全国に発信する前代未聞の作戦に、警察内部も、メディアも、世間も大きく揺れ動きます。

「正義とは何か?」「犯人に告ぐ、とはどういう意味か?」

視聴者は、テレビ越しに行われる刑事と犯人の対峙に引き込まれながら、事件の裏にある社会の歪みや人間の本質にも向き合わされていきます。

この作品の最大の魅力は、単なる事件解決のスリルだけではなく、警察、マスコミ、被害者、加害者、世間、それぞれの立場から“正義”が語られることです。

誰が正しくて、誰が間違っているのか。

読み手によって感じ方が変わる、多層的な社会派ミステリーになっています。

また、物語が進むにつれて、巻島自身の過去や内面にも光が当たり、事件と同時に人間ドラマとしての深みも増していきます。

決して派手なアクションが続くわけではないのに、ページをめくる手が止まらなくなるのは、まさに物語構成と心理描写の巧みさゆえでしょう。

 

■読後に強く残る印象的なシーン──揺さぶられた感情と思考

メディア

『犯人に告ぐ』を読んで、何よりも印象に残ったのは、巻島警視正がテレビカメラの前で犯人に向かって語りかけるシーンです。

これは小説の中でも物語の核となる場面であり、私にとっても強い衝撃を受けたシーンでした。

テレビという“公共の場”で、正体不明の犯人に対し堂々と呼びかける。

しかもそれが、単なるパフォーマンスではなく、真剣に犯人の心に届くよう言葉を選び抜いている――。

その姿は、警察官という職務を超えて一人の人間として社会と向き合っているように思えました。

このシーンを読んでいて、私の胸の中に沸き上がってきたのは、言葉の持つ力への畏敬の念です。

人を説得するのではなく、動かすこと。

それを、あえて映像というマスメディアを通じて行う巻島の選択は、リスクを背負いながらも「言葉が届くこと」を信じる姿勢そのものでした。

そしてその場面と並行して描かれる、被害者家族の葛藤や、視聴者の反応、警察内部の反発もまた、胸を打ちました。

警察という巨大な組織の中で「異端」として扱われながらも、巻島が信じたやり方を押し通す姿勢に、私はどこか寂しさや孤独感も感じました。

正義感だけで突き進むにはあまりに孤独で、味方が少なすぎる――。

しかし、それでも彼は信念を捨てない。

その強さと儚さのバランスが、この物語に人間味を与えていたように思います。

一方で、作中に描かれるそれぞれの登場人物の自己中心的な思考や行動には、少し寂しさも感じました。

自分の立場や感情を優先しすぎることで、事件の本質や人としての共感力がどこか置き去りにされていくような、そんな空気感。

けれど、それが「現実」なのかもしれません。

特に、報道メディアのあり方を問う描写は非常に鋭く、報道の自由と責任、視聴率重視の現場、センセーショナルな報道に飛びつく視聴者の心理など、現代社会にも通じる問題提起が数多く盛り込まれていました。

だからこそ、『犯人に告ぐ』は単なる警察小説ではなく、現代の日本社会に対する鋭い問いかけを含んだ一冊として、多くの読者の心に残り続けているのだと思います。

私自身、「読書がここまで考えさせてくれるものだったのか」と再認識させられた一冊になりました。

特に今のように、SNSやテレビの影響力が強い時代にこそ、多くの人に読んでほしい作品だと感じます。

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■ドラマ版『犯人に告ぐ』との比較──豊川悦司さんの巻島像に納得

巻島刑事

『犯人に告ぐ』は小説の人気を受けて、2007年に映画化もされています。

主演は豊川悦司さん。

巻島史彦というキャラクターの持つ静かな情熱と、鋭いまなざしを非常にうまく表現していた印象です。

私は原作を読んでから映像版を観たのですが、正直、豊川悦司さんの演技はまさに巻島そのものだと感じました。

寡黙で頑固、でも芯には揺るぎない正義感を持つ男――。

そんな主人公像が、彼の落ち着いた語り口や表情の奥にしっかりと刻まれていて、原作の世界観を壊すことなく、むしろ補強してくれていたように思います。

特に、巻島がテレビを通じて犯人に語りかける「劇場型捜査」の場面。

このシーンは小説でも非常に緊張感があるのですが、映像になることで、巻島の表情、声のトーン、間合いがリアルに伝わってきて、より臨場感が増していました。

静かな部屋の中、テレビ画面越しに語りかける言葉に、観ているこちらまで息をのむような迫力がありました。

また、映像版では警察内部の動きや、マスコミの反応などがテンポよく描かれており、全体の緊張感やスピード感がさらに強調されていたのも好印象でした。

小説は内面描写や思考の過程をじっくりと追える分、読者自身が考えながら読み進める余白がありましたが、映像版は視覚的に情報が入ってくるため、よりストレートに事件の“重み”が感じられました。

ただ一方で、小説ならではの細かな心理描写や複数人物の視点から描かれる構成は、どうしても映像では削られてしまう部分もあります。

そのため、原作ファンからすると「もう少しここを丁寧に描いてほしかった」という声もあるかもしれません。

ですが、限られた尺の中で映像化された内容としては、非常にバランスの良い仕上がりになっていたと感じました。

また、他のキャストについても、警察内部の上層部やマスコミ関係者など、それぞれクセのあるキャラクターたちを実力派俳優陣がしっかり演じており、重厚な物語にふさわしい緊張感が保たれていました。

特に、巻島のやり方に懐疑的な同僚刑事たちとのやりとりや、被害者遺族の思いをぶつけられるシーンは、映像で観ると一層心に刺さります。

原作と映像、どちらにもそれぞれの魅力がある『犯人に告ぐ』。

私はまず小説でじっくりと物語の背景や心理描写を味わい、その後に映像版でシーンの再現を楽しむ、という読み方・観方をおすすめしたいと思います。

キャストの熱演によって、「あの場面はこういう感情だったのか」と、物語の理解がより深まるからです。

 

■なぜ“今”この作品を読むべきなのか──変わらぬ本質と、進化した現代との接点

『犯人に告ぐ』が発表されたのは2004年。

今から20年以上前の作品ですが、むしろ“今だからこそ”読むべきテーマを持った一冊だと、私は感じました。

その理由のひとつは、作品の軸にある「メディアと世論の関係」です。

当時の作品では、巻島刑事がテレビという“劇場”を通じて犯人に語りかけるという斬新な手法が話題になりましたが、この“劇場型捜査”の是非や、メディアの影響力に対する疑問は、今まさにSNSやYouTubeなどで誰もが情報を発信・拡散できる時代において、よりリアルで切実な問題となっています。

作中でも、テレビ放送を利用して犯人にメッセージを発信することに対して、警察内部や世間から賛否両論が巻き起こります。

これはまさに現代の「炎上」や「ネットリンチ」に通じるところがあります。

世論という“見えない声”にどう向き合うか、正義とは何かという問いは、時代を超えて読者に突きつけられます。

また、被害者遺族の苦しみと、加害者を追う側の論理のすれ違い――。

この構造も、現代の報道やネット社会における「加害者家族叩き」や「被害者遺族のプライバシー侵害」といったテーマと深くつながっています。

巻島刑事はその中で、冷静に、時には苦悩しながらも、自分の信じる道を模索していきます。

この姿は、答えの出ない問いに立ち向かうすべての人への励ましになるはずです。

加えて、現代の私たちは情報のスピードと量に圧倒され、物事の本質を見失いやすい状況にいます。

『犯人に告ぐ』では、その情報をどう捉え、どう使うかによって、事件の行方や人々の判断が大きく変わっていく様子が描かれています。

だからこそこの作品は、私たちの“情報との向き合い方”を問い直すヒントを与えてくれるのです。

そして何より、この作品は単なる推理小説ではなく、人間の弱さやエゴ、正義感といった“心の揺れ”が丁寧に描かれた物語です。

登場人物たちは人間的に完璧ではありません。

それぞれの立場や思惑で動き、ぶつかり合いながら、事件解決というゴールを目指していく。

その姿に、どこか私たち自身の日常が重なる部分もあるのではないでしょうか。

「正しいことをしているはずなのに、誰にも理解されない」「世間の目が怖くて、本音が言えない」そんな葛藤を抱えたことのある人にこそ、この物語は強く響くと思います。

20年前の作品が、まるで今の社会を予見していたかのように感じられる。
それこそが、『犯人に告ぐ』という作品の真の価値であり、今読むべき理由だと感じました。

 

■『犯人に告ぐ』シリーズへの期待と、今後読みたい人へのおすすめポイント

本作『犯人に告ぐ』を読み終えた今、シリーズの2作目、3作目への期待で胸が高まっています。

少し古い本ではありますが、書店でふと目にした最新刊『犯人に告ぐ3』を見て、「あ、読みたい!」と直感的に思ったのがきっかけでした。

どうせなら初刊から読んでみようと手に取り、一気に上下巻を読み切ってしまったわけですが……

今思えば、それは正解でした。

本シリーズは現在、以下のような構成になっています。

『犯人に告ぐ』シリーズの刊行順
  1. 犯人に告ぐ(2004年)

  2. 犯人に告ぐ2 闇の蜃気楼(2011年)

  3. 犯人に告ぐ3 報復の連鎖(2023年)

このように10年以上の時を経て続編が出ていること自体、作者・雫井脩介氏の作品に対する構想の深さや、ファンの根強い支持があることを物語っていると思います。

シリーズとしての魅力とは?

1作目の時点ですでに、巻島刑事というキャラクターの複雑さや信念、そして“正義”のあり方への問いがしっかりと描かれていました。

彼はただのエリート刑事ではなく、自らの過去や世間との摩擦を抱えながらも、信じる道を貫く人物です。

その人物像が、続編でどのように変化し、あるいはどんな苦悩を抱えることになるのかは読者として非常に気になるところです。

また、1作目で提示された“劇場型捜査”というテーマが、今後どのように進化し、変容していくのか。

SNSやネット報道が一般化した現代において、その手法がどう通用するのか?

現実の社会課題とリンクしながら物語が展開される点も、シリーズの醍醐味といえるでしょう。

これから読む方へ、おすすめのポイント

まだ本シリーズを読んでいない方には、まずは1作目『犯人に告ぐ』を上下巻でしっかり読んでいただくことをおすすめします。

物語の骨格となるキャラクターたちの人間関係や、社会への問いがすべてここに詰まっています。

そして、読む際はぜひ「社会派サスペンス」としてだけでなく、

  • メディアと警察の関係

  • 被害者遺族の視点

  • 世論と個人の葛藤

こうした複雑なテーマを一緒に理解する気持ちでページをめくってみてください。

それによって、より深く、より重層的に作品を味わえると思います。

豊川悦司さんのドラマ版から入るのも◎

ドラマ版で刑事・巻島を演じた豊川悦司さんの配役は、原作を読んだ後でも「まさにこの人!」と感じさせる素晴らしいキャスティングでした。

ドラマから入って興味を持った方も、原作を読むことでより登場人物の心理や背景に深く入り込めると思います。

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